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「三味協会報原稿」より


  私の主人は写真家なのですが、3年前の6月、脳出血で倒れ、重い右半身麻痺と言語障害などの後遺症を抱えることになりました。5ヶ月間の長い入院生活ののち、家に戻って来ましたが、毎日のリハビリを欠かすことは出来ません。時々は車椅子を使いますが、ほとんどが4点杖と、右足の装具を用い、気の遠くなるようにゆっくりとした足取りで歩きます。
  週2回のリハビリ病院での訓練に加え、自宅での自主トレーニングは欠かすことの出来ない重要な日課です。幸い、私のレッスンスタジオが、歩行訓練にはもってこいの大きさなのです。
  歩くことは人間が生きてゆくのに、必要な基本の動きです。スタジオ内にトラックを設け、BGMを聴きながら、黙々と歩き続けます。そのBGMは三味線音楽のCDをかけます。いろいろなタイプの楽器や音楽を試してみたのですが、結局、一番スムーズに歩けて、元気が出るのが三味線音楽でした。
  ある時、私はどうしても練習しなくてはならない状況になり、主人の歩行訓練中にトラックの中央で生演奏に及びました。とは言え、あくまでも練習なので、突っ掛かったり、弾き損なったりして苦労しておりました。すると、主人の身体がグラッと揺れて、バッタンと前に全身で倒れてしまったのです。慌てて三味線を持ったまま、駆け寄ったのですが、時すでに遅し・・・支えることの出来ない右腕を下に倒れてうめいていました。すぐに起こして整形外科医に駆け込み、レントゲンを撮って調べましたが、幸い骨折はなかったのでホッとしました。以来、私は深く反省し、主人の歩行訓練中の練習はやめた次第です。
  今でも毎日欠かせないリハビリには、三味線音楽のCDを流して、歩行訓練は続いております。幸い、転倒もなく安全に歩けて、元気に過ごせるのは三味線音楽、三味線の音のお陰だと思います。三味線の音は病気の人に勇気を与え、元気になる活力を湧かせてくれるのではないでしょうか。私はそう信じて、三味線演奏家でつくづく良かったと思う今日この頃なのです。